【アトピー性皮膚炎と熱寒食養生】


【食物アレルギーの増加】


ここ40年、日本の食生活は大きく変化してきました。
中でも 動物性蛋白質 の摂取量は数倍に増えています。
これは食生活の内容面という意味では必ずしも悪いということではなくむしろ好ましいことなのですが、例えば卵や牛乳など抗原性が高い食物が多くなるということは、アレルギー性疾患の増加の原因の一つになっていると考えて間違いないでしょう。

しかし、食養生についての見解は、科が違う医師らの間でも異なることがあります。
『アトピーが消えた』(監修:秋田大学元学長 九嶋勝司 著:付 麗芳)の中では、ある科の医師によれば『食べ物は何を食べても良い。しかし、食べた結果はっきり症状が悪化するものがあれば、それは食べないようにしましょう。』といいますし、

また、別の科の医師によれば『アトピー性皮膚炎の原因の多くは食べ物です。原因となる食物はすべてやめること。卵、牛乳、大豆は絶対食べないこと。
場合によっては、小麦、鶏肉、お米も駄目』などとしています。
ある食べ物が皮膚炎の原因として疑われるのなら、その食物を除去してみるのも大切ですが、一般にそのての食物は複数に存在することが多く『アレモ、コレモダメ』ということになるとその食事制限がかえって栄養状態を悪化させ発育を阻害するケースもでます。

著しく反応する場合を除き食物はきちんと摂取した方が結果的に私は良いように思います。

さて、このテーマを考えるとき、いつも心に浮かぶあるお客様がいます。
昭和62年頃からのお話になりますから、かれこれ9年越しのお付き合いになります。
この方、某大学病院で検査(血中特異的IgE抗体検査)を受けた結果、卵、牛乳、大豆製品はもちろん食べられませんし、穀物でも粟、ヒエ以外は食べられないと言われてしまいました。
外来で予約日にいかないと大学病院の医師から直接電話がかかってくるなどの特別扱いになるほどアトピー性皮膚炎・喘息共に重い方に入る状態でした。
この方のお母さんは看護婦さんで、何度か相談を受けたものの、当時はそれほど本腰を入れたものではなかったので、こちらも力を入れて乗り出すという訳にもいかず、そのまま3年が過ぎてしまいました。

ある時、それまでは電話でしか話したことがなかったのですが、じっくり今までの経過やその方の悩みなどを直接お会いして聞く機会を持つことが出来ました。
本人としては、ステロイド剤を使えばすぐ効果はでるものの、副作用があるのであまり使いたくないのだが、使わずにいるとどんどんひどくなり、またミイラのような包帯ぐるぐる巻きの状態になってしまう。それも避けたい。どうしていいのか困惑しているというのが本音のようです。
それならば漢方薬の煎じ薬では、と勧めたのですが、実は以前、町で一番といわれる漢方薬屋に相談に行き、色々服用したのですが、6ヵ月続けたものの、さして快方に向かわなかったということで、気が進まないという。

そこでかなり勇気のいる決断だったのですがある方針を立て、私と3つの約束をしてもらいました。
@食べて著しく症状が悪化するもの以外は何でもまんべんなく食べてもらう。
Aケフィアを主体としたある健康食品を使ってもらう。
B風邪をひくと症状が悪化するので、風邪の時はそのときに合った漢方薬を使用する。
以上の三点を約束してもらい、気持ちを新に頑張ってもらうことになりました。
彼女自身の戦いの日々が始まりました。瞑眩とはいえ、一時は前頭部の髪は抜け、眉毛が抜け、本人にとってそれはそれは大変つらい時間だったと思います。
本人もいまさらステロイド剤を服用したくないし塗りたくもないという一心で努力し、とうとう最悪の状況を抜け出ることに成功しました。
彼女の勝利です。
毎年夏は、ひどくて手がつけられなくなるのですが、その年は、とにかく風邪をひかないように徹底的に注意し、入浴とバージンオイルによる手入れだけで切り抜けることが出来、少しずつですが目に見えて回復に向かってきました。

意を決してから二年。
今では紫蘇の葉の錠剤を使用しているくらいで、昼間も外に出られるし、すっかり自身を取り戻した様子。当初は殻に閉じこもりがちだった彼女も、今ではすっかり心を開いてくれて精神的にも安定してきました。
平成七年からは専門学校に入学して勉学に励むまでに回復しました。


【熱寒的考察と養生の基本】

アトピー性皮膚炎そのものは、湿邪の概念も関係してくるのですが、あえて熱寒でとらえるならば『熱』の疾患といえるでしょう。

漢方的なお話になりますが、皮膚を司るのは肺ですから、『肺熱』としてとらえることもあるでしょうし、場合によっては血熱としてとらえることもあるでしょう。それでは単純に、寒性の食べ物を増やせばよいかというとそうもいきません。

アレルギー性疾患において極めて基本的な養生の一つは漢方でいう『脾』、わかりやすく言えば胃や腸などの消化器を冷やさないようにするということです。

つまり、一般に言う冷たいもの、例えばアイスクリームや冷蔵庫から引っ張り出したばかりのジュースなどを大量にとったりすることは避け、また、俗に言う体を冷やす食べ物、例えば、お刺身やキュウリなども極端にとりすぎないようにした方が良いということです。

一般に、アレルギーの強さは生に近いほど強く加熱などの調理によって弱くなっていきますが、この『脾』を冷やさないようにするという点を考えてもうなずける話です。
さらに、様々なストレスがアレルギーを引き起こす誘因にもなりますので、全くとはいかぬまでもそれらを回避する環境を整えることも大切です。
人間がもつ、病気にたいする治癒力はすばらしいものですから、その力を十分引き出すために気持ちの持ち方を整え、正しい心構えで養生すれば、時間はかかるかも知れませんが、本当に見違えるほど良くなっていくこともまれではありません。

ですから私たち健康のアドバイザーは、本人が何とかしたいと願う気持ちがある限りともに考え改善に向けての指導を続けなければならないと思っています。

《参考メニュー例(g省略)》

<卵・牛乳・豆腐に代わる蛋白食>

(熱) (平) (寒)
カツオ(+1)
マグロ(+1) 
イワシ(+1) 
ニシン(+1)
サケ(+1) 
サンマ(+1)   
アジ(+0.5) 
サバ(+1) 
タラ(+1) 
牡蠣(+1)  
兎肉(+2) 
エビ(+1)
キス(±0) 
カレイ(±0) 
ヒラメ(±0) 
イカ(±0) 
アユ(±0) 
豚肉(±0)
タコ(−1) 
帆立貝(−0.5) 
ハマグリ(−1) 
カニ(−1)


《卵・乳製品・豆類が制限されたときの献立別熱寒分類》

熱性献立 寒性献立
焼き魚(鯵・鮭・秋刀魚など)+158
ホットケーキ    +120
朝がゆ + 37  
スパゲッティボンゴレ+250
おにぎり(2こ) + 32
きつねうどん  +362
スパゲッティナポリタン +436 
白身魚フライ  +187   
海老フライ       +415 
根菜の煮物   + 47   
ドーナツ        + 70
ホウレンソウのソテー +  3   
イカリングフライ    +320
紅茶、コーヒー + 57   
コーラ  +170       
りんご     +110   
くずもち + 98
大根下ろし      −50
トースト2枚 − 14
コンニャク入り煮物  −72
サラダ    −100
ホウレンソウのお浸し −54 
ざるそば    − 77   
キュウリ・蛸の酢の物  − 22
麦とろ定食   − 37   
キュウリ・シラスの酢の物− 91
ホウレンソウゴマあえ  − 24  
イカ刺し        − 11
緑茶  −30   
ウーロン茶  −180  
ヤクルト −33       
バナナ、メロン −93   
イチゴ    − 60  
ところてん−93

この文章は薬局新聞に連載された原稿をホームページ用に再編集したものです。

大和久式熱寒食事検査法は日本国において特許を賜りました。


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