【腎臓病と熱寒食養生】


【肝腎要 かんじんかなめ】

もっとも重要な事柄を例えて『肝腎要』といいます。
人間の身体の中でも非常に重要な臓器であることから、このように引用されています。
肝臓と腎臓、この2つの臓器の疾患についてはともに決定的な薬がないのも共通した事実で、罹ってしまったら安静を第一に食事療法で対処するしかありません。

異なる点といえば肝臓は一つしかありませんが、腎臓は二つあり一つが不能になっても残りの一つで何とか生活できるということと、腎臓の場合には、生活上の束縛はあるものの、人工透析という方法により、機械が肩代わりすることも出来ますが、肝臓の場合にはそのようなものはありません。


【腎臓という臓器】

腰の骨の少し上の位置に左右一つずつある臓器で、一つの重量は120g前後です。
基本的なはたらきは、御承知の通り、糸球体における尿の濾過、尿細管における、再吸収、分泌を経た最終尿の生成です。
この作業は非常に重要で、老廃物を体内に排出したり、電解質、酸塩基平衡の調節を行い、体内の環境を維持しています。
そのほかには@レニン、プロスタグランジンの産生、分泌による血圧の調節Aエリスロポエチンの産生を介した骨髄における赤血球の産生BビタミンDの活性化などのはたらきがあり、この点においても生命を維持していく上での重要な臓器であることはいうまでもありません。


【遠い親戚?!】

急性腎炎という疾患があります。
どういうものかといいますと、扁桃炎、咽頭炎などに引き続いて糸球体に炎症が起こるというもので、一年以内におさまるものをいいます。
これが治らずにこじれると、慢性糸球体腎炎へと移行していきます。

さて、扁桃腺と糸球体という、物理的には非常に離れたところにあるものがこの疾患の中に登場しています。
扁桃腺に何かトラブルが起きた場合、近くにある肺がやられたというのならわかります。
冷静にみれば不思議なことです。

しかし、漢方や鍼灸を研究なさっている方々ならすでに御承知の通り、東洋医学の立場からみれば、何ら不思議なことではありません。中医学に十二経脈という考えがあります。
人間の身体を巡る気の通り道の考えの一つです。
その中に『足少陰腎経』というものがあります。
簡単に説明すると、足の裏から足内側を通り、腎臓、膀胱、肝臓、肺、枝分かれして一つは心臓、もう一つは喉を通って舌の付け根までとつながっている経です。

つまり、腎臓も扁桃も、この経脈の流れの線上にあり、外科的な目でみれば全く関連のない二つの場所にも思えますが、東洋医学的には、ちゃんと関連していることがわかります。

【東洋と西洋】

一般的には、『腎』といえば、臓器としての『腎臓』を差しますが、ここでは枠を広げて、東洋医学でいうところの『腎』まで考えてみたいと思います。
中医学では、
@親からもらったエネルギーと、生まれた後食べ物から得たエネルギーを蓄えておく。
A骨の成長、修復を促す
B膀胱での尿の貯留と排泄
C聴力
D生殖能力などの機能を含んだきわめて広い意味で腎をとらえています。

例えば、子供の発育が悪く、なかなか大きくならないというような場合、これは腎精不足といい両親からもらった先天の精としてのエネルギーが不足していることを意味しています。

また、結果として成人しても、小柄で血色が悪い場合も基本的にこのような体質を持っていることが多いようです。
おおよそ、身体が冷えがちになることが多く、寒さを嫌うことが多いようです。
このような体質を持っている方は、基本的には身体を温めるものを意識してとると良いでしょう。
もっとも疾患にかかり、腎炎などの急性期で熱が発生しているときなどは、別のお話です。


【腎陰・腎陽】

目がかすむ、耳鳴りがする、のぼせて頭がボーっとする、生理不順、精力減退、身体が冷えるようになり、寒さが苦手になる、腰痛、神経痛、両肩のこり、痛み。

これらは、『腎』が疲労してきた時に起こる症状です。
腎にまつわる話は、基本的に腎陰と腎陽と言う二つの面から考えることが出来ます。
簡単に表現すれば、腎陰とは、それぞれの臓腑を滋養し潤沢にする働きがあるもので、不足するとその臓腑は、結果として熱側の症状を呈します。

腎陽は、各臓腑の働きを推進させ、温める力を持っています。
これが不足すると、生理機能の低下、冷えの症状などがでてきます。肝腎要の話ではありませんが、腎陰・腎陽は二つとも各臓腑の根本にもなっており、生命活動を維持していく上で、非常に重要です。


【工夫のしどころ】

私の友人に軽度のネフローゼ症候群のひとがいます。
浮腫と蛋白尿があり病院にもかかっていて、一度入院したこともあるのですが、今は医師の指導のもと、食事療法にて治療中とのこと。
私を尋ねてきたのは、本人の仕事の都合上、塩分制限高蛋白の食事がなかなか出来ないので、何か良い方法はないものかと思案にくれてのことでした。
仕事とは、いわゆる営業で、行こうといわれれば飲みにも行かなければならないわけで、なかなか思いどおりの生活は出来なかったようです。
このままでは、また、病院中心の生活に逆戻りになってしまうのは目に見えています。
奥様に御主人の生活スタイルを尋ねてみたところ、今の仕事をやめない限り、改善するのは不可能に近いことがわかりました。
営業という仕事は、私にも経験があるのでよくわかるのですが、どうしても外食が多くなりますし、接待が多いので夜はお得意様とお酒を飲むという生活が続くものです。

熱寒的にみた場合、熱タイプの食事が増えてしまうのもいたしかたないところです。
当然バランスをとるための食養生をする必要があるわけですが、仕事をしながらではそうするわけにもいきません。
では、仕事をやめればいいのかというと、長年携わった仕事をはいそうですかとトラバーユするのも、簡単なことではありません。

さてどうしたら、この状況の中で、からだのためになる工夫が出来るのか。何か良い方法がないのか、私も随分考えました。
営業の仕事中でもお得意様にも、失礼せずに漢方薬などを飲ませる方法がないものか。『薬酒!!』、お酒を飲む時に薬酒を飲んでもらうことなら出来るのではない。

早速本人にホワイトリカーを用意させ、私の方で用意した生薬をつけてもらい、薬酒を作ってもらいました。
接待の時などドリンクのビンなどに入れてでかけてもらい、いざ飲むという時にはその薬酒を割って飲んでもらうようにしてもらいました。
帰宅後も、もういちど薬酒を薄めずに濃いのを飲んでもらいました。

一ヵ月ほどして、先方より連絡がありました。
どうやらうまくいっているようです。様子をきいてみたところ、むくみがでなくなったばかりか、何よりも非常に調子が良くなったとのこと。
定期的に行っている検査の結果もよく、『よろしい!』とドクターに褒められたそうです。

今回の場合、養生はいっさいしないというケースでしたので、現状維持がいいところかとも思っていました。
しかし、熱寒バランスを考えた薬酒だけでの良い結果に、正直のところ、私もちょっと驚きました。


【腎臓の疾患に良い食品例】

《熱タイプに合う食品》 《寒タイプに合う食品》
スイカ (−2)
トウガン(−1)
ハトムギ(−3)
キュウリ(−1)
柿   (−2)
アズキ (±0)
緑豆  (−1)
※アズキには強い利尿効果があり、
漢方でも水分代謝の悪い場合などに応用されます。
スッポン(+2)
黒大豆(±0)
マナコ(−1)
シナモン(+2)
ニラ (+2)
※もち米(+1)ギンナン(+1)は
尿のでが悪くなるので避ける。

《腎炎に良いメニュー》

〈野菜スープ煮サラダ〉

キャベツ  
ニンジン  
グリーンアスパラ
小玉葱   
サヤインゲン
鶏手羽先  
固形スープ
生クリーム 
塩     
胡椒   
合   計
50g×(+0.5+0.5)=+ 50
30g×(+1+0.5)  =+ 45
30g×(+1++0.5) =+ 45
40g×(+2++0.5) =+100
10g×(±0+0.5)  =+  5
30g×(+1+0.5)  =+ 45
5g×(+0.5+0.5)=+  5
10g×(−0.5+0.5)=±  0
1g×(−1+0.5)  =−  0.5
0.3g×(+4+0.5)  =+  1.35
   +295.85


〈カボチャのコロッケセット〉

カボチャ 
玉葱   
サラダ油 
鶏挽き肉 
ナツメグ 
小麦粉  
とき卵  
生パン粉 
キャベツ 
ウスターソース
揚げ油  
合   計  
100g×(+1+0.5)=+150
30g×(+2+2)  =+120
4g×(+1+2)  =+ 12
20g×(+1+2)  =+ 60
1g×(+1+2)  =+  3
4g×(±0+2)  =+  8
10g×(±0+2)  =+ 20
10g×(±0+2)  =+ 20
20g×(+0.5)  =+ 10
5g×(−1+)   =−  5
15g×(+1+2)  =+45

+443


この文章は薬局新聞に連載された原稿をホームページ用に再編集したものです。

大和久式熱寒食事検査法は日本国において特許を賜りました。


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