【肥満と熱寒食養生】


【今日この頃の脂肪細胞】

「太っている人は区役所に届けてください!!えっ、どの用紙かって?それは、シボウトドケといってね」と軽快な調子で話す、故 林家三平師匠の面影。昭和30年代後半から40年代にかけての時代の1シーンであります。
日本人の食生活が急速に欧米化していったのはこの頃だったのかも知れません。

さて、肥満に大きくかかわるものとして、脂肪細胞というものがあります。
御存知の通り、成熟したものでは全容の99%がトリアシルグリセロール滴粒です。
人では、皮下組織、筋肉、腸間膜組織に脂肪が沈着します。

皮下脂肪組織に中性脂肪が蓄積する順は、@頬部 A胸部・大腿部 B腹壁となり、その貯蔵量は、40日間の絶食にも耐えられるといわれています。

さて、この脂肪細胞は年齢とともに大きくなり、細胞数も増加するわけですが、特に増加する時期が一生に3回あるといわれています。
@胎児期の妊娠終わりの3ヵ月
A生後1年間の乳児期(特にはじめの1ヵ月)
B思春期
当人の意識という点で、@Aはともかくも、Bの思春期に関しては、少々問題があるようです。最近の傾向として、さして太っているともいえない少女が、“もっと細くなりたい”とばかりに栄養のバランスを無視したダイエットを試みることが多くなっています。

また、中学生・高校生の娘さんを持つお母さんたちは、娘の体を一流モデル並みにしたいと、ダイエット関連品を買いにみえることもしばしばです。
本当に必要な場合は別として、このような場合は、無意味・無理なダイエットはしないようにと、説明して差し上げるのも私たちの仕事ではないかと考えています。

私のところにも、“3日で○○Kgやせたい”などという方がいらっしゃいますが1日に必要なミネラル、ビタミンを確保し、摂取するカロリーを抑えることを基本に、熱寒の体質にあわせた具体的な献立などを紹介しながら、時間をかけた無理のない減量方法にするようにとお話ししています。


【肥満症の定義】

肥満症の場合、多くの疾患が合併しやすく、『肥満者に少ないのは結核と自殺だけである』と言われるほどです。

肥満症の場合、多くの疾患が合併しやすいものです。この点、ウェイトコントロールは、健康維持のために、重要な意味を持つということになります。

肥満という言葉は、ちまたでよく聞かれる言葉なのですが、それを明文化するとどうなるのでしょうか。
『脂肪組織、特に皮下脂肪組織に中性脂肪が異常に蓄積した結果、体重が骨格系、あるいは生理機能の限界を越えて増加した状態』これは、南山堂の医学大辞典に載っている、“肥満”の定義です。

そして、これを具体化するいろいろな計算式やデータがあるわけです。また、より適切な治療・指導が行えるようにと次のような説もあります。


【2つの肥満】

「肥満治療は焦点を絞ってやるべきだ」これは95年3月2日の朝日新聞夕刊に載っていた大阪大医学部の松沢佑次教授の言葉です。
記事によれば、もう10年以上前から、皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満とに分けることを提唱していらっしゃるのだそうです。
内臓脂肪型肥満の場合、高血圧、糖尿病などになりやすく、心臓血管の病気を持つ人にはこのタイプが多いことも分かってきたのだそうです。

反対に、皮下脂肪型の方の場合は、体重が160sあっても異常のない人もいるということで、太り気味だからといって必ずしも治療を必要とするということにはならないと語っています。
つまり、皮下脂肪型の場合はさておいて、内臓脂肪型の肥満の場合は、特に注意する必要があるということになります。
この場合は、運動不足、砂糖のとりすぎなどが大きく関与しているということのようですので、効率よくカロリー消費が出来る定期的な運動をいかに日常生活に組み入れるかが、対策のポイントになるわけです。


【肥満の原因】

肥満症の原因は、外因性のものとして“食べ過ぎ・運動不足”、内因性のものとして“体質”、“内分泌異常”などがあります。
明らかに多いのは、外因性のものです。わたしたちの生活をふり返ってみて頂ければおわかりの通り、食べ過ぎてしまう機会は多くても、運動する機会というのは逆に少なく、エネルギーの消費量が低いのが現実です。

家族調査で、両親に肥満症が見られる場合には、その子供の70%に肥満症が見られ、片方の親がそうである場合は50%、両親ともに正常体重の場合はわずか10%であるということが知られています。
とはいうものの、遺伝因子や体質という点については、まだまだ不明な点が多いのも事実のようです。

また、肥満の治療方法には、内臓そのものに工作をするバイパス手術や、脂肪を吸収する部分を切除するというかなり荒っぽいものもありますが、予後の話を聞けばもとにもどる場合が大半だということです。
幾ら食べてももう大丈夫だということで、食生活の見直しに結び付かないのがその原因のようです。
裏返せば、食生活の見直しを伴わない方法は、長い目で見たときには疑問が残るのではないでしょうか。


【カロリーコントロール】

基本的には摂取するカロリーと消費するカロリーとのバランスがポイントです。
体を動かせばカロリーの消費につながるのですが、動かし方もいろいろなのでそれぞれ消費カロリーも異なります。
100Kcalというエネルギーを消費するためには、どれくらいの行動が必要なのでしょうか。

例えば、水泳ですと5分ですし、散歩というか歩くということでは30分、まして体を動かさない読書などでは6時間近くかかってやっと消費されるほどです。
カロリー消費に役立つ適度な運動を継続することが大切です。

ところで、山登りをするときに、氷砂糖やチョコレートを持って行くというのは常識ですが、これらの糖分は、即吸収され、血中への移行が速いので、緊急時などのエネルギー源として重宝されているわけです。
似たようなお話で、糖尿病の患者さんが、初めて薬を服用する際に、氷砂糖を持ち歩くように指導を受けますが、これも同じ理由から、血糖が下がりすぎた場合に備えた対策であることは御存知の通りです。

ダイエットの場合は、これと反対の事に目を向ければ良いのです。
カロリーが低く繊維の多いものなどを先に食べ、高カロリーで吸収されやすいものを後に食べるようにするのです。

例えば、糖分の吸収が遅いものとして、マメ科の食べ物がありますが、これらのものに、先にはしをつけるように意識することが工夫の第一歩です。もちろん、早食いをしないとか、よくかんで食べるなどという基礎的な注意事項は守られているということが前提です。

普段口にしている食べ物は、御存知の通り、似たような量でもカロリーは随分違います。
リンゴ1個で160Kcal、牛乳200ccで118Kcal、ショートケーキ1個238Kcal、ポテトチップス1袋だとなんと528Kcalにもなるんですね。
糖分の多いジュース、アルコール類はいうまでもなくできるだけ避けたいものです。
ポイントは“ちょっとだけなら”のお菓子と、“一杯だけなら”のアルコールの誘惑に負けないこと。
それでもどうしてもというときは、低カロリーでおいしいものが今はありますので、うまく活用すれば良い結果が得られるでしょう。


【肥満と熱寒】

さて、太り気味の方の場合、一般的に“熱タイプ”の方が多いようです。
漢方薬でいうと、防風通聖散、大柴胡湯、桃核承気湯などが適するようなタイプということになります。
この場合は、涼性の物や瀉性のものが比較的多くなるようなメニューにすると基本的にはバランスが良いということになります。
また、少数ではありますが“寒タイプ”の方ももちろんおります。
こちらの場合は、先程の涼性の物や瀉性の物をとりすぎるとかえって体調を崩してしまいますので注意が必要です。
基本的に基礎代謝の良くないケースが多いと思いますので、そちらに目を向ける必要もあります。
さらに、五苓散や防已黄耆湯などを用いるような“水毒”的体質が絡んできたりもしますのでその点も加味して考えていかなければなりません。

さて、ダイエットといえば、減量成功後の復食が大きなポイントになります。
減量前と同じ生活パターンに戻してしまえば、せっかくの苦労が無駄になります。
相談に来られる方の中には、気の短い方もいらっしゃいますが、ある程度きちんとした心構えで続けないと良い結果がえられないのも事実です。


この文章は薬局新聞に連載された原稿をホームページ用に再編集したものです。

大和久式熱寒食事検査法は日本国において特許を賜りました。


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